置いていく。
見捨てる。
短い間でも、確かに仲間だった彼らさえも―――
灰色の夢
残っていた敵を倒して残りジャスト4分。
周りに殺気が無い事を確認して、私はハル達のところへ走り出す。
と同時にいきなり何かに足を掴まれ、止まらざるを得なかった。
「・・・た、助け・・・・・・」
それは、息も絶え絶えのボンゴレファミリー要員。情報部で何度か見かけた事がある。
出血が酷いにもかかわらず、足を掴む力は凄まじく、容易に振り払えるものではなかった。
「いたい・・・たすけて・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
(見捨てる)
「たす、け・・・・・・・、っ!」
私は目にも留まらぬ速さで同期の男の喉と心臓を裂いた。
多分何が起こったかも分からなかっただろう。
手を切り落としてもっと痛い思いをさせるよりも、マシかと思った。
一人痛みに耐えながら熱い思いをして死ぬよりも、マシかと思った。
彼らと共に此処で死ぬ事は出来ないから。
手が緩んだ隙に、私は再び走り出す。
(・・・どうか、苦しまないで)
謝る事も、出来ないけど。
ハル達のところへ着くと、私は問答無用で彼女の腕を引っ張り上げて立たせた。
抵抗は、ない。
無駄だと分かっていてもせずにはいられなかったのだろう、その手にはジュリオの傷を抑えて真っ赤に染まったハンカチを持って。
二人はまだ生きていた。私は何故か震えそうになる声を抑えて話しかける。
「貴方達の仇はちゃんと取ったから。安心して・・・・でもアレッシアの仇は未だ生きてる。この事態を引き起こした誰かさんもね」
「・・・・だから、さっさと逃げろ、って・・・」
「私は絶対にそいつらを見つける。見つけて追い詰めて捕まえて、生まれてきた事を必ず後悔させてやる」
「・・・・・」
「貴方達三人に誓うわ。私の命と誇りにかけて―――必ず」
彼らの為ではない。
私の、私自身の為の誓いだ。
全身全霊を懸けて。この全てを目に焼き付けて。私は生きて絶対に・・・・・全てを成し遂げてみせる。
「それじゃ、私達は行くわね。・・・お疲れさま」
「生きろよ・・・・班長も、も」
「・・・・頑張って、ね」
「カルロさん、ジュリオさん・・・・さよなら、本当に・・・ありがとう!」
ひらひらと振られた手と、二人のぎこちない笑みに見送られて。
私達は、血染めの会場から出て行った。
彼方此方から聞こえる呻き声や、助けを求める声は、聞こえない振りを、して。
「さん、・・・何処に・・・」
「上」
「上、って・・・まさか」
「そのまさか!でもその前にちょっと待ってて!」
私は急いで隣の部屋に入り、三十路前ハッカーを引きずり出す。
部屋の奥で未だぶつぶつ言っている連中は、見捨てるしかなかった。
だけど、私の『Xi』としてのプライドに懸けても、この男は死なせない。
「この人は・・・!?」
「今回の仕事のターゲット。連れて行くから」
「ハルも手伝います!!」
火事場の馬鹿力とは、こういう事を言うのだと改めて認識した。
男の割に小柄で細身だったのが幸いしてか、二人で持てば、何とか屋上に続く階段を登りきることが出来たのだ。
屋上に人は居なかった。
やはり、此処も爆発してしまうのだろう。もう時間は一分あるかないか。
あとは、周りにある此処より少し低いビルに――――飛び移るしか、ない。