義務じゃない。

義理すらない。

 

ただひとつあるとすれば、それは多分、意地のようなもの。

 

 

 

灰色の夢

 

 

 

「いやでもさんっ!二人も抱えてどうやってそんな事無理」

「黙ってないと舌噛むわよ!!」

「はひ・・・っ!?」

 

 

 

悲鳴をあげようとしたハルの腰から掻っ攫って、私は空を跳んだ。

このビルが他の建物よりも高くて良かった。おまけにハルは軽い。

数秒の滞空時間を経て、私達は少し離れた隣のビルに着地する。

 

茫然自失の彼女を会場のあるビルからは見えないよう奥の方へ押しやり、私は来た道を振り返った。

 

 

―――後はあの聞き分けの無い子供のような三十路前ハッカーを連れて来るだけ。

 

 

 

 

「ハル、動かないでね」

さん!・・・だ、駄目です!もう間に合いません!!」

「間に合わせる!」

 

 

 

私は、再び跳んだ。

・・・勿論、登らなければならない分、時間は掛かる。一度の失敗も許されない。

見つからないように、私に出来る、一番速いスピードで。

 

(・・・・・とは言え・・・っ流石にキツい・・・!)

 

地面からの跳躍ではない分、助走が不足していて、随分スピードが遅い気がする。

 

 

 

「―――っ!!」

 

 

 

結局最後は手を使って屋上に体を投げ出した。あちこちを打ったが気にする余裕も無い。

私は直ぐに気絶しているはずのハッカーの元へ急いだ。

 

が、近くに行くと僅かに身じろぎしているのが分かる。意識が戻りかけているのだ。

 

 

(・・・・今騒がれるとマズイ・・・!)

 

 

 

「・・う、・・・ん・・・・ごふっ!?」

「もうちょっと寝ててね?」

 

 

 

ので、適当に殴っておいた。

彼は一瞬眉を顰めたものの、そのまま眠りの世界へ戻っていったようだ。

 

此れ幸いと男の足を引っ掴んで持ち上げようとして―――

 

 

(・・お、重いんだけどっ)

 

 

小柄童顔三十路前、しかし、まがりなりにも男。これを担げたとしても跳ぶ事が出来るかどうかは・・・

 

 

 

「・・・・っああもう、うざったい!」

 

 

 

時間が無い中、考える事が面倒になった私は。

ハッカーをよいしょとばかりに持ち上げ―――ビルの外に、ていっと投げ落とした。

 

 

と同時に壁を蹴って私も跳ぶ。

 

 

(この反動で・・・・間に合えば・・・!!)

 

 

必死に伸ばした手の先が落ちていく男に触れたその時。

 

 

 

 

 

 

―――――――光、が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほらツナ、日本茶淹れたぜ。これで少しは落ち着けよ」

「ん・・・・・うん、ありがとう」

「いいっていいって」

 

 

 

ボスの執務室は未だに悶々とした雰囲気に包まれていた。

見かねた山本が茶と茶菓子の差し入れをして少し場が和んだが、それでも過ごし易くはならない。

 

と、その時だった。

部屋の外で慌しい足音が聞こえ、続いて執務室への入室の許可を求める声が響く。

 

その声には、かなりの焦りが感じられた。部屋の中に緊張が走る。

 

ボスは瞬時に表情を引き締め、訪問者に入るよう言った。

 

 

 

「大変です!」

 

 

 

髭を蓄えた獄寺の部下である双子の男達は、入ってきた瞬間にそう叫んだ。

 

 

 

「お前ら・・・一体どうしたんだ!?」

「何があったの?」

 

 

 

ボスと獄寺が厳しい声を上げる。二人の剣幕に押されながらも、双子は懸命に話し出す。

 

 

 

「じ、実は、本日開催されている同盟ファミリーとの親睦パーティーにて・・・」

「・・・・・!」

「親睦パーティーだと?!」

 

 

 

その言葉に、部屋に居た幹部全員が立ち上がった。

 

ボスだけは厳しい顔つきのまま、椅子に座っている。そしてそのまま極度に冷えた声で先を促した。

 

 

 

「・・・それで?」

「はい。そのパーティー会場が、何者かによって爆破されたそうです!」

「・・・・・・・・嘘だろ、おい・・」

「・・・・まさか・・・・・・」

 

「状況は?」

「詳しくはわかっていません・・・・ですが、その・・・・」

 

 

 

「生存者は、絶望的かと―――――」

 

 

 

ボスは一瞬だけ、天を仰いだ。

 

 

 

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