技術があっても、使えなければ意味はない。

 

 

 

灰色の夢

 

 

 

 

痛みは多少残っていたが、意識が普段通りしっかりしてきた所で。

漸く私は先程までいたビルを、見やった。

 

 

 

「・・・・全く、跡形も無いわね」

「そうですね・・・」

 

 

 

最上階は勿論、その一つ下の階までもがすっかり消えてしまっている。

鉄骨など内部がむき出しになったビルを眺めながら、これからの事を考えた。

 

 

(取り敢えず、何とかしてボンゴレに・・・・)

 

 

いきなり帰るのはマズイかもしれない。誰が敵かも分からないのだ。

 

ハッカーのあの態度からして、彼をこのままボンゴレに引き摺っていくのは得策とは言えないだろう。

気付く人間が居るわけが無いとは思うが、生き残っているのがバレて、もし万が一帰る途中で襲われたとしたら。

 

今の私達は、まともに戦うことさえ出来ない。

 

 

なら、取り敢えずはボンゴレに、ひいてはボスに連絡する事が先決か。

 

 

 

「ねえ、ハル。携帯持ってる?」

「・・・・す、すみません!どこかに落としちゃったみたいで・・・・」

「いやいいのよ。私だって向こうに置いてきたから」

 

 

 

邪魔だった鞄等はとっくに捨ててきてしまっている。・・・・今頃原型など留めていないだろう。

今の私が持っている物といえば、ハッカーから手に入れたメモリースティックと多少の武器だけ。

 

 

 

さん、このハッカーさんなら持ってるんじゃないですか?」

「ああ、いたわねこの人」

「・・・・・・・」

 

 

 

私は昏倒中のハッカーににじり寄り、ちょっと失礼と呟いて体のあちこちを探った。

しかし。

 

 

 

「・・・・・・・」

「・・・・無いん、ですか」

「・・・・つくづく使えない男・・・・」

 

 

 

元から期待はしていない。

 

そう、何も携帯でしか連絡できないわけじゃないのだ。ならば何処か安全な所に身を隠して何とかして連絡をつければ良い。

それに何時までも屋上に居ては、状況を掴むことさえ難しいのである。

 

 

ここから出る。―――それが、私達が取るべき道。

 

 

 

 

 

 

 

次の行動を決めたところで、ふと私は自分達の姿を見て、思った。

 

 

(・・・これは、目立つな・・・)

 

 

ハッカーはまだ良い。左腕の応急処置さえ済ませてしまえば、ただのマフィアだ。多分。普通なら誰も近づかない。

 

私・・・も、際どいがまだ何とかなる。

乱れた頭を整え、何とか無事だったショールを肩に掛ければ焼け焦げた背中の辺りはぎりぎり隠せる。

返り血は殆ど浴びてないし、元々暗い色のドレスだ。薄暗い裏通りを通ればすぐに気付かれるという事も無い。

 

 

ただ、ハルだけはもうどうしようもない。あの明るい空色のドレスには真っ赤な染みが点々とついていて。

陽の下だろうと裏路地だろうと、そのコントラストはどうしても目を引いてしまうだろう。

 

誰の目にも触れることなく移動するには、暗い内にはここから出て行かなければならない。

 

 

 

 

今の彼女に、それが出来るだろうか。

 

次へと進む事が、出来るのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハッカーの腕は見事なまでに複雑骨折だった。

 

事故、とはいえ私の所為であることは認めざるを得ない。応急処置だけはしておいてやろう。

 

 

 

「ハル、手伝ってくれる?この腕取り敢えず処置するから」

「はい!・・・すみませんハル骨折とかの応急処置方法知らなくて・・・」

「大丈夫。私、昔は骨折なんてしょっちゅうだったからもう慣れてるし」

「え、そうなんですか!?」

 

 

 

暗いうちに出ると決まった以上、体裁など気にする必要は無い。

私達は遠慮のかけらも無くハッカーの結構高級な服を裂きながら手当てを続けていく。

 

 

 

「勿論。情報屋始めた頃なんて怪我なんか日常茶飯事。死に掛けた事なんて数え切れないわ」

「はひー・・・何だか想像もつかないです」

「・・・私だって、最初から戦えてた訳じゃないもの」

 

 

 

大量殺人犯とはいえ、所詮は素人。プロには絶対敵わなかった。

 

そんな私でさえここまで上り詰める事が出来たのだから、彼女にだって出来ると信じても・・・・罪にはならないでしょう?

 

 

 

「ハルだって、今からでも遅くはないわよ?」

「・・・・・・、・・・でも・・・」

「一通り銃の使い方だって習ったんでしょうに」

「っ!!」

 

 

 

ハルは驚いたように目を瞠った。何故分かったのかとその目が言っている。

その反応に私は薄く笑みを浮かべつつ、引き裂いたシャツをハッカーの腕に巻いて結ぶ。

 

 

 

「・・・どうして・・・」

「・・・・最初に会った時、覚えてる?」

「?もちろん、ですけど・・・」

「私が恭弥ぶっ飛ばしたとき、貴女・・・普通に銃に手伸ばしてたじゃない」

 

 

 

あの時、あの部屋に居た全員が己の武器に手をかけた。

 

ハルも例外ではない。

 

 

 

「ハル、・・・本当は戦えるんでしょう?」

 

 

 

顔色を失った彼女に、私は更に追い討ちを掛ける。

 

 

 

「少なくとも、その技術は持っている。・・・・そうよね?」

 

 

 

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