恭弥が居たから、私はこの『ボンゴレ・ファミリー』を信用する事にした。
大のマフィア嫌いの私がこんなに楽しく時間を過ごせたのは、恭弥のお陰なのだろう。
灰色の夢
気を取り直してボスに微笑みかけ、ここに来た目的を無理矢理思い出す。
「本当に失礼しました。こんな所で昔の知人に会うとは思ってもみなくて・・・・・」
「・・・・・え、あ、いや、・・・・えっと、雲雀さんとはどういう・・・・・?」
ほんの一瞬だけ、間が空いた。
自分でも分からない。別に躊躇したわけじゃないけれど――――そのはずだけど。
「 幼馴染です」
沈黙、そして。
「「っっえええええええぇぇ!!?」」
前と後ろ、両方から絶叫が聞こえた。冷静なのは帽子を被った少年と恭弥位だ。
「・・・・うるさいよ」
「気持ちは分からなくもないけどね、私は」
「へぇ、それはどういう意味かな」
「御察しのとおりで」
「・・・やっぱり咬み殺」
「わあ怖い取り敢えず本題に入りませんか10代目、このままじゃ私の命が危険でして」
「――――うん、そうだね」
微妙な笑顔でそう答えるボス。私の隣からは舌打ちが聞こえた。
「じゃあ改めて、あちらに移動しようか」
示された黒いソファ。革張りで高級感たっぷり、座り心地は最上級。
なんてふかふかなのかしら等と微笑の下で考えながら周りを観察してみる。
正面、そのくせ一番遠い所にボス。右に恭弥、その奥が女性。左に陽気な青年、その奥が目付きの悪い青年。
帽子を被った少年はその場から動かず此方を見据えている。
私が妙な事をした瞬間に少年の銃が火を吹くのだろう。するつもりは無いが。確か彼はボンゴレ最強と謳われる一流の殺し屋だったはず。
名は・・・・『リボーン』。
私の実力からいっても勝てる相手ではない。とはいえ逃げる事くらいは出来るかもしれない。
―――こうやってこの人達を観察し策を練るのは、何だかとても楽しい気がする。
「では本題に入ろう。昨日うちの者がとある酒場で殺されたんだけど」
「知っています」
恭弥を見た時から腹は決まっている。下手に誤魔化す事もない。
「・・・・・知っている、とは・・・具体的にどういう事かな?」
「率直に申し上げて、最初から最後まで見ていたという事です。つまり、口論が始まってから殺されるまで」
「ああ・・・一部始終だね。それなら話は早い―――ハル」
ボスは女性に目配せをし、質問者を彼女に変えたようだ。
ということは彼女が情報部か。
「はい。それじゃ、質問させていただきます・・・・あの、これからの会話を録音させてもらいますが構いませんか?」
「ええ、結構です」
メモ完備のハルという女性は大筋の確認を終えてから、核心に迫ってきた。
「貴女は店主に、そのマフィアは中国人だと言ったそうですね?」
「はい。―――大抵の情報屋なら見たことがある顔でしたから」
「ズバリ、誰ですか?」
「中国マフィア『熊猫』所属のbQ.李州栄です」
その名を出すと、予想通りというべきか、空気が固まった。
「・・・・・・へぇ」
面白がるような声を上げる恭弥。
・・・・そんな獲物を前にしたような笑みを浮かべなくても、と思うが。
“彼”はあまりに有名だ。もちろんここイタリアでも。麻薬御法度のボンゴレでは、手を焼いていたのかもしれない。
「・・・・・まぁ、そっくりさんという可能性も捨て切れませんが。私が一概に言えることじゃないでしょう」
「う―ん、微妙なところだね。季州栄、中々の大物だけど」
「取引の相手がそれなりの人物だったのなら頷けますけどね」
「という事は、うちの者を知っていたのかな?」
「名前だけは。失礼かと思いましたが、名刺を確認させて頂きました」
折角の休暇を無粋な銃声と血で邪魔してくれたのだから。それ位は我慢してもらわなくては。
「あの、何を言い合っていたか・・・・・とかわかりませんか。断片的で構いませんし」
「あぁ、それでしたら」
私は持っていた鞄の外ポケットから小さな道具を出した。
そう、あの部屋に仕掛けておいた超小型映像録音機である。音声だけの再生も出来る優れものだ。
「映像と、音声が入ってますので――――差し上げます」
「ワオ。用意周到だね」
「腐っても情報屋だもの。相手の顔と、何を言っているか位は分かると思います」
これは謙遜である。声紋判定できる程には精巧だ。きっと彼らも満足するだろう。
「・・・・・・・君は、すごいね。まさか此処までとは思って無かったよ」
「有難う御座います。でも、今日は特別ですから」
「特別?」
「予期せぬ再会記念ということで、出血大サービスです」
「・・・・・・・」
憮然とした表情、低い声。――――どうやらコレは滅多に見られないことらしい。
ボンゴレの面々は、爆笑した。
ヒットマンの少年でさえも、肩を震わせている。
「・・・・・君達、覚悟は出来てるんだろうね?」
「八つ当たりは大人気ないわよ―」
「喧嘩売ってるなら倍額で買うよ」
「スミマセンデシタ」
微笑みはそのままに、棒読みで謝ると殺気を向けられた。からかうのはこの辺で止めておこう。
ホントに殺される。