脳天直撃の一発だったし、障害が残ったら困る。

 

これから死に物狂いで働いてもらうのだから。

 

 

 

灰色の夢

 

 

 

私が殴った三十路前ハッカーは軽い脳震盪程度で済んだようだった。

 

ハルの懸命な呼びかけが功を奏してか、彼は薄っすらと目を開く。

 

 

 

「・・・・・・・・?」

「おはよう、ハッカーさん。ご機嫌いかが?」

「気が付いたんですね!」

「・・・・・・・・・・」

 

 

 

今度はいきなり叫ぶ事もなく、彼は虚ろな目で私とハルとを交互に見やった。

 

そして何かを思い出すように眉を顰めて私を注視すること、約十秒。

 

 

 

「―――――――っ!!」

 

 

 

瞬間、ハッカーは声にならない悲鳴をあげて、必死で私とは反対側へ後ずさった。

 

芋虫みたいだった。

 

しかも大した距離も行かないうちに体がいう事を聞かなくなったようで、諦めたらしい。

私を見るその顔は恐怖で引き攣り目尻には涙が光っている。男の癖に軟弱な。

 

これだと何だか私が幼気な子供を苛めているみたいじゃないか。

 

 

 

「・・・・ハル、よろしく」

「はひっ!?何をですか!!」

「この人。今私が近づいたら心臓麻痺で死にそうじゃない?折角助けたのに」

さん・・・・」

 

 

 

まあハルが私からの押し付け、もといお願いを断れるはずもなく。

ハッカーの視界から私を隠すように、私とハッカーの間にちょこんと腰を下ろした。

 

私からは見えないが、多分あの、人を安心させるような笑顔を浮かべているに違いない。

 

 

 

「初めまして、ハッカーさん。ボンゴレファミリー情報部情報処理部門第九班班長、三浦ハルです」

「・・・え、あ・・・・・あぁ、知って――っ痛・・・」

「ハッカーさん!・・・怪我酷いんですから楽にしててくださいね。応急手当はしておきましたけど、麻酔とか無くて」

「怪我・・・うわ腕動かねぇ・・・頭もガンガンする・・・・ってか、体中痛いような・・・」

「跳んできた時に色々ぶつけたんじゃないかと思いますけど、命に関るようなものはないそうです」

「、跳ぶ?・・・・って!それよりここ、何処なんだ!?」

「えぇと、パーティー会場があった所の隣のビルの屋上です」

「はぁ・・・?」

 

 

 

非常に和やかに進む会話。

 

私じゃなかったら直ぐに警戒解きやがった。この男・・・・どうしてくれよう。

ハルは根気良く、ただし核心には触れずに今の状況を説明しようとしている。

 

 

・・・・まあ、後は私が引き受けるか。思い返すのも嫌になるけれど。

 

 

 

「ハル。説明は私がするわ・・・・この人大分落ち着いてきたようだし」

「え、いいんですか?」

 

 

 

私は振り向いたハルににっこり微笑んで頷いた。そして少し前に出て、ハルの隣に座り込む。

 

 

 

「・・・お、おおお前はっ!!」

「あら。レディを指差すなんて、失礼じゃありません?」

 

 

 

ハッカーは私が前に出るなり唯一自由に動く右腕を持ち上げ、人を指差して喚いた。

 

 

 

「お前みたいな乱暴女がレディを名乗るな!」

「まあ、そうですかもっと眠りたいんですか。すみません私気付かなくて。どうぞ好きなだけ眠っていただいて結構ですよ?

もう喜んでお手伝いさせていただきます。それこそ・・・・永遠に、でも?」

 

「・・・・・・・・っ・・・!!」

 

さん!脅してどうするんですか脅して!?」

「こんなの脅迫の内にも入らないってば」

 

 

 

ただ単に、反応が安直過ぎて逆に面白いというか。

この背中の痛みは半分以上こいつのせいだなあとか思ったりしてたというか。

そもそもこいつが情報盗まなきゃこんな事にならなかったんじゃないかとか八つ当たりで思ってみたりとか。

 

 

―――最悪なのは惨劇を計画しそれを実行した誰かだと、分かっている。

 

 

大丈夫。間違えたりしない。

 

 

 

「あの、ハッカーさん?この方はさんで、ハルの第一部下です」

「・・・・え、そうなのか?」

「そうなんです。だからハッカーさん安心してください。滅多な事がない限り、さんはこっちから手を出さなければ何もしませんよ」

「・・・・・・・・・・・そ、そうなのか?」

「そうなんです!」

 

 

 

触らぬ神に祟りなし。―――ってハル、私のことどういう風に思ってるわけ?

 

 

 

「まあいいけどね。・・・・で、そこの怪我人」

「・・・・・何だ」

「状況説明、聞く?」

 

 

 

それから私は今まで起こった事を、かいつまんで説明した。

 

会場が何者かに襲われた事、取り引き場所と会場に仕掛けられていた爆弾の事。

既にそれらは爆発し、会場は跡形も無い事。私とハルがハッカーを助け、その結果の怪我であるという事。

 

そして。

 

 

 

―――生き残ったのは、私達だけであるという事。

 

 

話の突飛さの所為か、信じられないという表情を隠しもしなったハッカー。

 

だが、ハルと二人で体を支えてやり、鉄骨が剥き出しになった無残極まりないビルの惨状を見せると信じざるを得なかったようだった。

 

 

 

「嘘だろ、おい・・・」

「だったら良かったのに、ね」

「・・・・っなら、何で助けた!あのまま放っておけばよかっただろ!!」

 

 

 

殆ど間一髪で助けられた事と、どうやら私の傷を心配しているらしい。案外フェミニストなのか?

 

 

 

「言ったでしょう?殺すつもりはない、と。・・・・貴方には、死ぬ権利すらないんですよ」

「・・・・・・・・・・・」

「加えてこの惨状ですからね。まず間違いなく貴方が盗んだ情報に関連があるはず。・・・尚更死なせるわけにはいきません」

「俺、は・・・」

「とことん協力してもらいますから。覚悟しておいて下さい」

 

 

 

何が何でも、絶対に。

 

 

 

←Back  Next→