冗談半分、本気半分―――
でも、やってやれないことはない。
・・・その自信だけはあった。
灰色の夢
「・・・・・・・・・・・・・・・はい?」
ぽかん、と呆気に取られたような顔でハルはそう呟いた。
今耳にした事が信じられない、とか、何を言ってるんだこの人は、みたいな目で私を見ている。
私は普段通りナチュラル無視をして、更に話を進めていく。
「最も、日本には帰れないでしょうけどね。ボスの母国だけあってかボンゴレがほぼ全土を網羅してるみたいだし」
「あ、あの・・・・・・、さん・・・?」
「ヨーロッパ圏から離れるとすれば、一番良いのはアメリカかしらね・・・人が多いし、何より日本人が居ても違和感がない」
中国あたりも悪くないけど、ハルが暮らしていくのはちょっと難しいかも。
「ね、どう?」
「ど、どど・・・どう、とか言われてもその・・・・」
混乱し動揺しまくっているのががありありと分かるどもり具合。
私は内心笑いながら顔だけは至極真面目な感じを保っていた。
そしてハルの思考がパンクする寸前――――呆れたような声がそれを遮った。
「んなもん無理に決まってんだろーが。馬鹿か」
「は、ハッカーさん!?」
「あらあらそこの怪我人さん、盗み聞きとはいい趣味ですこと」
「なっ・・・・この距離で盗み聞きもクソもあるか―――!」
「レディに向かって下品な言葉とはね。イタリア紳士の風上にも置けない」
「やかましい!・・・・う゛っ・・・・」
最初は寝転がったままぼそりと呟くハッカーだったが、私の挑発に安易に乗ってきてがばっと起き上がって叫んだ。
しかし直ぐ傷の痛みに顔を顰め、呻き、ばったりと地に倒れ伏した。
・・・馬鹿はどっちだ、この馬鹿。
「・・・だからっ!お前が言ってたんだろうがボンゴレからは逃げられないって!」
「ああそれは貴方の場合ですし。状況が違いますので」
「お、お前・・・」
一ハッカーと一情報屋、もとい『Xi』との違いというものは歴然。
というか、馬鹿にしないで欲しい。私が居ながらみすみす捕まる様なヘマをさせると?
「心配しなくても連れて行ってあげますよ?貴方一人置いていって、ボロが出ても困りますし」
「・・・・そ、そういう事を言ってる訳じゃ・・・」
「今安心したでしょう」
「だあ!うるさい!」
丸分かりだってば。
このまま追い詰めるのも楽しいが、これ以上やっては喧しくなる事必至。
からかうのは一時中断して改めて口を開く。
「確かに、逃亡者の生活っていうのは悲惨で・・・・辛い事の方が多いかもしれない。
陽の下で道を堂々と歩く事は出来ないし、ずっと怯えて暮らさなきゃいけない」
「捕まれば死―――だろ?」
「・・・・ま、そうとは言い切れないけどね」
「?何でだ?」
私達はハルそっちのけで会話をしていた。
いや、彼女は会話が出来る状態ではなかったので当然というべきか。
ハッカーの発言で一瞬正気に戻ったものの、再び思考の海に沈み今もまだ呆けている。・・・これも改善の余地がありそうだ。
「おい」
「ボンゴレのボスが『沢田綱吉』だからよ」
「・・・・・・・?」
「勿論、私達は別かもね。見つけられた瞬間に問答無用で殺されるかもしれない。けど、ハルに関しては違うわ」
「・・・・・・・・・・あぁ、成程な」
「そういうこと」
沢田綱吉は、ボスになってからまだ数年しか経っていない。
元来の優しさ故かそこかしこに甘さが目立つ。冷酷な面も持ち合わせているにしろ、向ける相手が限られている。
そんな彼が、ハルを―――殺せるか?もしくは殺せと、命令する事が出来るか?
「そこまでマフィアに染まってるとは思えないけど?」
「あ―・・・・」
私とハッカーが納得したように頷きあっていると、今頃ようやくハルが復活して叫んだ。
「もう!何で二人して分かり合っちゃってるんですか!?ハルを置いてかないでくださいっ」
「だってハルが何時まで経っても硬直してるんだもの」
「さんがいきなり突飛な事言い出すからじゃないですか!」
「そう?自然な流れだと思うけど」
マフィアで居る以上、そしてのし上がりたいと思っている以上―――それでは困るのだ。
そういう甘い考えでは、困る。
自分も周りも傷つけてしまうだけなのだ。
「ねぇ、ハル?良く考えて。今逃げれば確かに追われる立場になってしまう。夜に隠れて生活しなきゃいけない。
・・・・でも人を殺すという事からは逃れる事が出来るわ。もう戦う必要も無い」
「・・・・え・・・・・・」
「私も一緒に逃げてあげる」
さあ、どうする?